当事者目線で考える自殺未遂者事後ケア
今日は広島県の総合精神保健福祉センターが主催する「自殺未遂者地域支援研修会」があり、
県内の保健師、臨床心理士、精神保健福祉士などの職種の方と一緒に私も研修に参加させてもらいました。
先日、某「自殺未遂者ケア研修」で大いに落胆をしたので、正直、出席の返事をしたものの
行くまでは気が重いところもありましたが
今日の研修は、『同じテーマでもこんなに違うのか』と思わされる、学びの多いものでした。
なぜそう感じることができたのか。
それは、講師である日本医科大学病院精神保健福祉士・社会福祉士の大高康史先生が、
救急搬送された自殺未遂者に、その後1年間の継続経過観察、面接調査というように当事者の生の姿、生の声に触れている方だからでしょう。
講義の中で紹介された当事者の生の声は実感がこもったものであり、新たな気づきを多くいただきました。
言葉の端々にも、クライアントを「症例扱い」せず、一人格として尊重していることが伺われ、気持ちよく聞くことができます。
たとえば、自殺未遂を起点とした事後ケアの図式が、一般的に行政が示す図式(私が今まで大体見てきた簡略図ですが)と違っています。
一言で言うと‘当事者にどのように立ち直っていってもらいたいか’という目線で描かれています。
私はこのフローの中で「危機を生き延びた人」という着眼点が、特に気に入りました(個人的に)
この図式の中にある「安心できるよう組織されたサポートネットワーク」とは医療機関であり、行政窓口であり、地域の支援団体でもありますが相互の関係には川上も川下もなく、どの窓口に辿りついてもネットワークが連携し、必要な人が必要な支援が受けられることが本来の姿だということです。
先生の言葉の中で、しっかりと覚えておきたいことが多くありました。
「自分はだめな人間で(自己否定)、周囲も自分のことを認めてくれず(世界の否定)、
きっと将来はひどいことになる(将来の否定)というように、問題が頭の中でどんどん大きくなっていく状況の中で、「問題に圧倒されてしまい」、『死ぬしか救われる方法がない』と思い詰めて未遂に至る。」
「事後ケアしても本人をとりまく現実の状況はすぐに解決するものではないが、「安心できるよう組織されたサポートネットワーク」の存在を知ることで、『最悪の場合でも救われる方法がある。なんとかなるかもしれない』選択肢があることを知って、「死ななくても救われる」という安心感から、視野が広がり、現実と向き合えるようになる。」
当事者の1年後の声として「色々な困りごとを色々な人に相談しているうちに、いつからかわからないけど、死ぬことを考えなくなった」という話。
「(どこの部署でどんな専門領域でというのではなく)支援者1人1人が、未遂者にとっての社会資源の1つの点である、という意識が必要」
午後は、広島大学の自殺未遂者介入事業の事例から、グループワーク。
現実に合わせて「サポートネットワーク」作りを考えると、地域の保健師さんの負担が大きすぎるような気がしました。
研修の最後に精神保健福祉窓口担当者以外の参加者が自己紹介をする時間をいただいたので、
小さな一歩が「こころのシェルター」事業を開始したときに、
『安心できるサポートネットワーク』の中で、どんな役割を目指すかを少し話しました。
たとえば、公的支援窓口が、当事者に最適な「支援方法(to do list)」を作る役割を担うなら、
「こころのシェルター」は支援方法にたどりつくまでの‘閉ざされた心の整理’や、
様々な支援を、自分の心の中で整理しながら視野を広げていく’ための
敷居の低い「語りの場」でありたい、と話しました。